フィクション:一日

 朝起きて、いつもの習慣でコーヒーを飲んだ。ネットの記事での評判と蘊蓄に唆されて買った、それまで馴染みのなかった種類のやや高級な豆だが、結構気に入ってしまい、コーヒーを飲んでぼうっとする時間が少しだけ長くなってきている。

 今日は休日で、カップを片付けて何をしようか考えていると、本棚の上の読みかけの小説が目に入り、それを一時間ほど読み進めた。久しぶりの長編SFだ。舞台設定は現代からほど遠くない近未来となっているが、小説をどっぷり読んでからテレビのワイドショーを見ると、なんだか現実は現実で大概小説のような世界になってきているような、いや気のせいでもあるような、とにかく映像の向こうの社会の出来事との距離感が少しずれるような感覚を味わう。もし自分がこの手のSFを書くとしたら、どんな立場の人を主人公にするかな、などと考えてみる。

 昼前、思い立って美術館に足を運ぶ。気になっていた画家の回顧展だったが、思いの外あまり印象に残る絵がなかった。灰色の絵が多かった。美術館の額縁の中でまで見たい色ではない。一点、子供たちを描いた絵があって、可愛らしくもないが大人びても見えない不思議な存在感が、帰り道で思い出された。

 夕方から友人と落ち合い、夕食を共にした。調子は相変わらずだったが、第三者の噂話が盛り上がったのは珍しいことだった。話の中で人物像が誇張されていき、なんだか別の知らない人が現れたみたいで、一人歩きする噂の来し方行く末を想像してみたりした。

 家に帰ると、早めに床についた。明日の帰りにCDをレンタルしにいこう。もしかしたら、目当ての曲があのアルバムに入っているかもしれない。